競馬の「その後」を考える
「勝てない競走馬は“馬刺し”になる」は本当か?
引退したサラブレッドたちは、その後どこへ行くのか
競馬について、昔からまことしやかに語られてきた話がある。
「走らない競走馬は馬刺しになる」
「未勝利の馬は、そのまま食肉に回される」
競馬を知らない人から聞いたことがある人もいれば、競馬ファン同士の会話で耳にしたことがある人もいるだろう。冗談のように使われることさえある。
では、これは本当なのだろうか。
結論から先に言えば、「勝てなかった競走馬は自動的に馬刺しになる」という話は事実ではない。中央競馬を引退した馬には、地方競馬への移籍、繁殖、乗馬・馬術競技、養老などさまざまな道がある。JRA自身も登録抹消後の進路として地方競馬、繁殖、乗馬などを挙げている。
しかし、だからといって「競走馬が食肉になることはない」と言い切るのも正確ではない。そして、引退したすべての馬が最後までどこで暮らしたのかを追跡できているわけでもない。2026年3月の国会答弁でも、引退後の具体的用途をすべて把握できる仕組みにはなっていないことが政府から説明されている。
この問題には、白か黒かでは語れない現実がある。今回は刺激的な噂だけを切り取るのではなく、競走馬が競馬場を去った「その先」を追ってみたい。
目次
- 「勝てない馬=馬刺し」という話はどこまで本当なのか
- そもそも競走馬はなぜ引退するのか
- 競走馬登録を抹消すると何が起こる?
- 進路① 地方競馬へ――中央を去っても競走生活は続く
- 進路② 繁殖――すべての馬が種牡馬や繁殖牝馬になれるわけではない
- 進路③ 乗馬・馬術競技という第二のキャリア
- 競走馬から乗用馬へ――実は簡単な転職ではない
- 進路④ 養老牧場で余生を送る馬たち
- では、本当に食肉になる競走馬はいるのか
- 「馬刺しになる」という言葉が単純すぎる理由
- なぜ引退した馬の最期まで分からないことがあるのか
- 「乗馬になった」だけでは終わらない
- 競走馬を一頭飼い続けるということ
- 変わり始めた日本の引退競走馬支援
- RRC――競走馬だった経験を次のキャリアへ
- 名馬だけを救えばいいわけではない
- 競馬ファンにもできることはあるのか
- 結論――「勝てない馬は馬刺し」の一言では語れない
1.「勝てない馬=馬刺し」という話はどこまで本当なのか
まず、最初にはっきりさせておこう。
「競走馬が勝てなかった」
↓
「競走馬登録を抹消」
↓
「そのまま食肉」
という決められたルートが存在するわけではない。
JRAによれば、中央競馬の競走馬登録を抹消した馬はJRAの施設から退厩し、その後の行き先は馬主と調教師が話し合って決める。公式に例示されているのは、地方競馬への転出、繁殖馬、乗馬への転用などだ。
したがって、「未勝利だったから食肉になる」「○勝できなければ処分される」といった単純なルールはない。
実際、中央競馬では勝てなかった馬が地方競馬へ移籍し、その後も競走生活を続けるケースはある。競走生活を終えてから乗用馬になる馬もいる。牝馬なら競走成績だけではなく血統などを評価され、繁殖牝馬となることもある。
ただし、ここで話を終えてしまうと、今度は反対方向に現実を単純化してしまう。
「引退した競走馬は、みんな地方競馬や乗馬や牧場で幸せに暮らしている」と考えることもまた、実態を正確に表しているとは言えないからだ。
2.そもそも競走馬はなぜ引退するのか
競走馬が競馬場を去る理由は、「勝てないから」だけではない。
能力面の限界。年齢。故障。繁殖入り。より適したカテゴリーへの移籍。さまざまな理由がある。
GⅠを何勝もした名馬であっても、いつかは引退する。未勝利馬も、重賞馬も、三冠馬も、競走馬でいられる期間には終わりがある。
特にサラブレッドは、競走馬として走ることを目的として生産される馬が多い。しかし、その競走生活は馬の一生から見れば短い。
ここに引退競走馬問題の根本がある。
「競走馬としての役割が終わったあと、残りの馬生をどうするのか」
競馬が続く限り、毎年必ず新しい競走馬が誕生し、同時に競馬場を去る馬も生まれる。これは一部の特殊な馬だけの問題ではなく、競馬という産業そのものが抱えている課題なのである。
3.競走馬登録を抹消すると何が起こる?
競走馬が中央競馬を引退するとき、一つの大きな区切りになるのが「競走馬登録の抹消」だ。
登録を抹消すると、その馬はJRAの競走馬ではなくなり、JRAの施設から退厩することになる。
ここから先の道は一つではない。
中央競馬を引退したあとの代表的な進路
・地方競馬へ移籍して競走を続ける
・種牡馬、繁殖牝馬になる
・乗用馬になる
・馬術競技馬を目指す
・養老牧場などで余生を送る
・その他の用途へ移る
ここで重要なのは、「JRAを引退した」と「馬としてのキャリアが終わった」は同じ意味ではないということだ。
中央競馬の登録抹消は、一つのキャリアの終了にすぎない。その馬にとっては、そこから次の人生――正確には「馬生」が始まる場合も多い。
4.進路① 地方競馬へ――中央を去っても競走生活は続く
中央競馬を引退した馬の進路として、競馬ファンに最も馴染み深いのが地方競馬への移籍だろう。
JRAも、登録抹消後の代表的な行き先として地方競馬への転出を挙げている。ただし、地方競馬へ移籍するための条件は各主催者によって異なり、収得賞金、年齢、過去の出走制限などが条件となる場合がある。
中央ではなかなか勝てなかった馬が、環境や相手関係が変わることで地方競馬で活躍するケースもある。
逆に地方競馬で実績を積み、条件を満たして中央競馬へ戻ってくる馬もいる。
つまり「中央競馬で勝てなかった」という事実だけで、その馬の競走馬としての価値がなくなるわけではない。舞台を変えることで、競走生活そのものが続く可能性がある。
5.進路② 繁殖――すべての馬が種牡馬や繁殖牝馬になれるわけではない
競馬ファンが「引退後」と聞いて最初に想像するのは、種牡馬や繁殖牝馬かもしれない。
GⅠを勝った牡馬が種牡馬となり、その産駒が数年後に競馬場へ登場する。名牝の仔がデビューし、母子二代のGⅠ制覇を目指す。競馬の大きな魅力の一つだ。
JRAの競走馬を繁殖馬にする場合は、競走馬登録を抹消する必要がある。繁殖牝馬は繁殖登録、種牡馬は繁殖登録に加えて所定の種畜検査が必要になる。
ただし、競走馬として生まれた馬すべてが繁殖入りできるわけではない。
特に牡馬の場合、種牡馬として求められるハードルは高い。競走成績、血統、将来の需要など、さまざまな要素が関係する。
牝馬についても、繁殖入りできれば一生の行き先が保証されたという意味ではない。繁殖生活にもいずれ終わりが訪れ、その後の余生という次の問題が待っている。
6.進路③ 乗馬・馬術競技という第二のキャリア
引退競走馬のセカンドキャリアとして、現在大きな役割を担っているのが乗用馬への転用だ。
競馬場では時速60km前後で走っていたサラブレッドが、引退後は乗馬クラブで人を乗せたり、障害馬術や馬場馬術、総合馬術などに挑戦したりする。
これは単なる「余生」ではない。
競走馬としての能力とは異なる能力を身につけ、第二の仕事を始めるという意味で、本当の意味でのセカンドキャリアと言える。
JRAも、乗用馬・馬術競技馬を引退競走馬の主要なセカンドキャリアの一つと位置づけ、サラブレッドの特性に合わせたリトレーニング指針を策定している。
しかし、ここにも簡単には見えない問題がある。
7.競走馬から乗用馬へ――実は簡単な転職ではない
競走馬と乗用馬では、馬に求められる行動が大きく違う。
競走馬は、速く走ることを長期間教えられてきた。スタートすれば前へ進み、周囲の馬と競り合い、騎手の合図に反応して加速する。
ところが乗馬では、ゆっくり歩く、止まる、一定の速度を保つ、落ち着いて人の指示を待つといった能力も重要になる。
競馬場では長所だった敏感さや前進気勢が、初心者を乗せる乗用馬としては扱いにくさにつながることもある。
そこで必要になるのが「リトレーニング」、つまり再調教だ。
JRAが引退競走馬向けのリトレーニング指針を整備しているのも、この転換が単純なものではないからだ。競走馬時代とは異なる環境の中で、人との新しい信頼関係を作り、別の仕事を覚えていく必要がある。
「引退したから乗馬にすればいい」というほど簡単ではないのである。
8.進路④ 養老牧場で余生を送る馬たち
競走も繁殖も乗馬も終え、仕事をせずに余生を過ごす馬もいる。
いわゆる「養老馬」だ。
広い放牧地で草を食べ、仲間の馬と過ごす。競馬場で全力疾走していた時代とはまったく違う生活である。
ただし、養老生活にも費用がかかる。飼料、敷料、削蹄、獣医療、土地、厩舎、人件費。馬が何も仕事をしなくなっても、飼養コストがなくなるわけではない。
そのため、養老牧場や引退馬支援団体が果たす役割は大きい。
JRAは2026年度も、養老・余生、リトレーニング、受け入れ先の調整などを行う団体を対象とした支援事業を実施している。事業の窓口は一般財団法人Thoroughbred Aftercare and Welfare(TAW)が担当している。
9.では、本当に食肉になる競走馬はいるのか
ここまで読むと、最初の疑問が残る。
結局、競走馬が食肉になることはあるのか。
ここは曖昧にせず整理しておきたい。
日本では馬を食用として飼養・流通させる仕組み自体が存在しており、農林水産省の馬の飼養統計でも「肥育馬」は乗用馬や在来馬などとともに区分上明示されている。2024年の国内の馬の総飼養頭数は77,595頭で、そのうち競走用軽種馬は48,418頭。残る区分には乗用馬、肥育馬、在来馬などが含まれている。
したがって、「日本では馬が食肉になること自体ない」という説明は誤りだ。
一方で、ここから「競走馬を引退した馬の○割が馬刺しになる」といった数字を簡単に導き出すこともできない。
競走馬登録を抹消した時点で申告された用途と、その馬が何年も後に最終的にたどった場所は同じとは限らないからだ。
つまり、「競走馬が食肉になるケースは存在し得る」という話と、「勝てない競走馬は馬刺しになる」という話は、まったく同じではないのである。
10.「馬刺しになる」という言葉が単純すぎる理由
「馬刺しになる」という表現には、もう一つ注意すべき点がある。
馬の食肉利用といっても、すべてが私たちが飲食店で見る「馬刺し」として流通することを意味するわけではない。
食用馬として計画的に肥育される馬と、競走用に育成されてきたサラブレッドでは、飼養目的も経歴も異なる。競走馬だった馬が最終的に食肉用途へ移ったとしても、それだけで「スーパーや専門店に並ぶ高級馬刺しになった」とまでは分からない。
ネット上では、この部分が一気に省略されがちだ。
事実:馬の食肉利用は日本に存在する。
事実:競走馬には引退後、複数の進路がある。
事実:すべての引退馬の最終的な行方が完全に追跡されているわけではない。
誤解:勝てない競走馬は自動的に馬刺しになる。
この四つを分けて考えるだけでも、問題の見え方はかなり変わる。
11.なぜ引退した馬の最期まで分からないことがあるのか
このテーマを調べていくと、必ず一つの壁にぶつかる。
「引退競走馬は最終的に何頭がどこへ行ったのか?」
一見すると簡単に集計できそうだが、実はそうではない。
2026年3月26日の参議院農林水産委員会で、農林水産省はこの問題について説明している。
競走馬引退後の用途については、競走馬登録抹消申請書の抹消事由をJRAや地方競馬全国協会が確認することで把握している。しかし、主な用途である乗馬、繁殖、研究などのほか、「その他」とされるものなど、登録抹消時点でも具体的な用途を確認できないケースがあり、すべての引退競走馬について把握できる仕組みにはなっていないと政府参考人が答弁している。
しかも、登録抹消時点の行き先が分かったとしても、それは馬の「最終地点」ではない。
例えば、競走馬から乗用馬になった馬が、その後別の施設へ移動することもある。繁殖牝馬になった馬にも、繁殖を引退する日が来る。地方競馬へ移籍した馬にも、再び競走生活を終える日が来る。
だから「登録抹消時の用途」と「その馬が生涯の最後にどうなったか」は別問題なのである。
12.「乗馬になった」だけでは終わらない
引退競走馬について考えるとき、登録抹消時の進路だけを見て安心してしまう危険もある。
「乗馬」と記録されていれば、第二の人生が保証されたように感じるかもしれない。
しかし乗用馬にも、いつか引退する日が来る。
馬術競技で活躍していた馬も年齢を重ねる。故障することもある。初心者向け乗馬として働いていた馬も、高齢になれば仕事を続けられなくなる。
つまり本当の意味で引退競走馬の問題を考えるなら、
競走馬 → 乗用馬
だけではなく
競走馬 → 乗用馬 → 乗馬引退後の余生
まで考える必要がある。現在の支援策で「養老・余生」が明確に対象とされているのも、この問題がセカンドキャリアの確保だけでは終わらないからだ。
13.競走馬を一頭飼い続けるということ
なぜすべての競走馬を、そのまま養老牧場で一生飼えばいいという話にならないのだろうか。
その背景には、馬という動物を長期間飼養することの難しさがある。
馬には毎日の飼料が必要だ。厩舎や放牧地も必要になる。蹄は伸び続けるため定期的な手入れが欠かせず、病気やけがをすれば獣医療も必要になる。もちろん、世話をする人も必要だ。
そして、それは数週間ではない。
若くして競走生活を終えた馬なら、その後長期間にわたって飼養する可能性がある。
だから引退馬問題は、単純な善意だけでは解決しにくい。
馬を受け入れる場所、人、費用、再調教の技術、次の所有者とのマッチング、そして高齢になったあとの余生。そのすべてを継続的に支える仕組みが必要になる。
14.変わり始めた日本の引退競走馬支援
一方で、日本の競馬界がこの問題を放置しているわけでもない。
近年、引退競走馬のセカンドキャリアや余生を支える取り組みは拡大している。
JRAはリトレーニング指針の策定や、養老・余生に取り組む団体への支援などを実施している。また、2017年から開催されている引退競走馬のアフターケアに関する国際フォーラム「IFAR」にも初回から参加し、2024年には札幌でフォーラムが開催された。
さらに、引退競走馬のアフターケアを専門に扱う一般財団法人TAWは、引退馬の一時受け入れ、リトレーニング、受け入れ先に関する情報収集や提供、養老・余生の機会拡充などに取り組んでいる。
2026年3月の国会答弁では、JRAによる引退競走馬への支援について、2025年度に約19億円が措置されたことも説明された。
これは、引退競走馬の問題が「一部の愛馬家だけが考える問題」ではなく、競馬産業全体で取り組むべき課題として扱われ始めていることを示している。
15.RRC――競走馬だった経験を次のキャリアへ
引退競走馬の新しい可能性を象徴する取り組みの一つが、「RRC(Retired Racehorse Cup/引退競走馬杯)」だ。
RRCは、引退競走馬の乗用馬・馬術競技馬への転用を促す入口となる競技会として2018年から行われている。障害馬術、馬場馬術、総合馬術、TRECといった種目があり、引退した競走馬が新たな舞台で能力を発揮している。
2026年もRRCは開催されており、障害・馬場・総合では原則として競走馬引退後3年以内などの出場条件が設定されている。
ここには重要な発想の転換がある。
「競走馬として走れなくなった馬」ではなく、
「競走以外の能力をこれから身につける馬」と考えること。
速く走るために育てられてきたサラブレッドには、運動能力、学習能力、人との関係など、競走以外の分野で生かせる可能性もある。
競走成績だけをその馬の価値と考えなければ、引退後の選択肢は広がるのである。
16.名馬だけを救えばいいわけではない
引退競走馬の話題になると、どうしても有名馬に注目が集まる。
GⅠ馬が牧場で余生を送っている。かつての名馬に会える。そうしたニュースは競馬ファンにとって嬉しいものだ。
しかし、競馬を支えているのは名馬だけではない。
GⅠを勝つ馬はほんの一部だ。重賞に出走することなく引退する馬もいる。1勝だけで競走生活を終える馬もいる。一度も勝てないまま競馬場を去る馬もいる。
それでも、その馬たちは同じ競馬を走ってきた。
農林水産省の資料では、2024年末時点の競走用軽種馬は48,418頭。このうち競走馬として登録されている馬だけでも21,907頭にのぼる。
引退競走馬の問題を本気で考えるなら、名前を誰もが知っている数十頭だけではなく、競馬場を静かに去っていく多数の馬をどう支えるかという視点が欠かせない。
17.競馬ファンにもできることはあるのか
引退競走馬の問題は規模が大きく、個人には何もできないように思えるかもしれない。
しかし、支援の方法は馬を自分で引き取ることだけではない。
引退馬を受け入れている牧場や団体を訪れる。活動内容を知る。適切な団体へ寄付する。引退競走馬が参加する馬術競技を見る。競走馬の「その後」を知ろうとする。
こうした行動も、引退競走馬への関心を広げる一つの方法だ。
JRA競馬場で行われるチャリティー活動がRRCなどの支援につながる例もある。2025年に小倉競馬場で行われた日本騎手クラブ主催のチャリティーゼッケン販売では、販売した507枚の売上507,000円がRRCへ寄付された。
競馬を楽しむことと、引退した馬の行方を考えることは矛盾しない。むしろ両方を知ることで、競馬という世界をより立体的に見ることができるのではないだろうか。
18.結論――「勝てない馬は馬刺し」の一言では語れない
では、最初の質問に戻ろう。
「勝てない競走馬は馬刺しになる」という話は本当なのか?
答えは、その言い方のままなら「違う」となる。
競走成績によって自動的に食肉用途へ送られる仕組みがあるわけではない。中央競馬を引退した馬には、地方競馬、繁殖、乗馬・馬術競技、養老など複数の道がある。JRAもそれらを登録抹消後の進路として明示している。
しかし同時に、「競走馬が食肉になることは絶対にない」と言うのも正確ではない。
日本には食用馬の飼養・流通が存在する。そして、引退した競走馬すべてについて、その後の移動から最期までを完全に追跡できる制度が確立しているわけでもない。2026年の国会答弁でも、すべての引退馬について具体的用途を把握できる仕組みにはなっていないことが確認されている。
だからこそ、この問題を「かわいそう」「そんなことはない」の二択で終わらせてはいけないのだろう。
重要なのは、競走馬を引退したあとにも馬の生活は続いているという、ごく当たり前の事実である。
地方競馬へ行った馬には、いつか競走生活を終える日が来る。繁殖入りした馬には、繁殖生活を終える日が来る。乗用馬へ転用された馬にも、乗馬として働けなくなる日が来る。
本当の意味で問われているのは、
「引退直後にどこへ行ったか」だけではない。
その馬の生涯を、どこまで支えられるのかということだ。
近年は、その考え方も少しずつ広がっている。リトレーニング、RRC、養老牧場への支援、TAWによる一時受け入れや受け入れ先の情報提供など、引退後を支える仕組みは以前より整備されつつある。
競馬場で私たちが見るのは、一頭の馬の人生のほんの一部分にすぎない。
新馬戦でデビューし、未勝利戦を走り、条件戦へ進み、重賞を目指す。その華やかな物語の裏側では、毎年多くの馬が競馬場を去っていく。
GⅠを勝った馬にも、1勝もできなかった馬にも、競走生活のあとがある。
「勝てない馬は馬刺しになるの?」という少し刺激的な疑問は、その現実を知る入口にはなる。ただ、その先まで知ってみると、本当に考えるべきなのは「勝てなかった馬はどうなるのか」ではなく、「競馬を終えたすべての馬に、どんな次の道を用意できるのか」なのかもしれない。








